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ソウル・雨─AtoZ.

第8章 雨の夜の彼方へ─

 ─瞳をただ、閉じるだけでチャンミンは夢を見られる気がした。
 明日は知らない。朝の光はもう要らない。
僕が欲しいものは…胸の中にある。
 腕を伝って、ユノの体温がチャンミンの身体の内に流れ込んで来た。
温かい、ゆるやかな春の海の潮の流れを思わす心快さに体のすべてが、溶け出し、ふたりが溶け合う。
 もう、自分さえ要らない。ずっと前からこうしたかった…でも、僕はきっと、間違ってる…。
 それでも、胸の中は朝の空気のように澄み切っていた。
 少しだけ、ユノの閉じかかっている睫毛が、密やかに震える。
薄いガラスに、刻まれたような繊細な壊れそうな小さな顔にチャンミンは、優しく微笑みかけた。
 真っ白い両頬を、愛しむ掌が触れ、吐息のように何度も撫でる。
隙間無く合わさった身体と躰は、残り火の色が皮膚にあった。
 チャンミンの瞳のおもてには、真珠の光沢がブルーグレーの夜明けを映しはじめていた。
 胸の中だけで、チャンミンは優しく愛しい言葉を呟き続ける。
 やがて…夢の中で降る温かい雨が、チャンミンとユノをやさしく包んだ。
 ─深い醒めやらぬ夢の底……チャンミンはひとりだった。
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