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ソウル・雨─AtoZ.

第8章 雨の夜の彼方へ─

 何も纏わないユノに、青のピアスをつける。そのピアスごと、チャンミンはユノの耳朶を唇に挟む。火の酒のかすかな香が小さな炎のように、立ちのぼる。果ててしまったユノは壊れた人形のようだった。
 (抜け殻で、良い─)
ユノの魂を、持たない…ユノの身体。…─それで…、充分だった。気持ちは要らなかった。
 チャンミンの端麗な容貌には不思議な充足感が、あった。
 …僕は…幸福…。再び、青ざめ、凍ったような白いユノの小さな貌を見やった。
唇も冷えきっている。
 ユノも僕だけ…。
自然とチャンミンの唇が、薔薇が咲いたように開く。
 微かな風が動かすように、ユノの髪の毛先を、そろり…─と撫でた。
 身動きひとつしないユノを、柔らかく両腕で、包む。ユノの静かな、安らいだ…目を閉じた貌。
 静かな息が、闇を擽る。
淡い、息遣いと微笑みが、暗がりのなか、ほのかな灯になった。
 ただひとつの魔法の呪文のような…幾たびの呟き。
 それに応えるようなピアスの煌めき…。
北極星の煌めきを写し取ったように輝く。 
 …ユノによく似合う。……
涙にも似た、氷の雫。蒼…。
 ユノの肩の上に、そっと俯けた顔をチャンミンは伏せた。

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