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ソウル・雨─AtoZ.

第8章 雨の夜の彼方へ─

 ──(それでも…)堪らなく、愛しい。─どうしようも、なく…。ゆったりと身体を絡めて…ユノのすべてに唇をつけないでは、いられない─。
 ……(チャンミン─)…耳元で…囁かれた気がした。(チャン…ミ─ン…)もっと、…もっと僕の名前を─呼んで、…欲しい。…そのユノの声を…聴きたい─。
 それが、自分を突き動かしている気がした。
 火照った皮膚はまるで真夜中の太陽に射られているかのように、熱い。
止められなかった。泳ぎ続けなければ、溺れてしまう。だから…がむしゃらな、動きをチャンミンは続ける─。
 誰かが、気がつくと、優しく髪の毛を撫でていた。宥める仕草で柔らかく…何度も。
…(いいんだ、いらない…よ、ユノ─もう、なんにも)
 手首を握り潰す力を込めて取り、シーツに強く押し付けた。
 か細い、生まれたばかりの仔猫に似た小さい哀願のなき声がチャンミンの耳に届く。…悲鳴に近い掠れた声。
 その声を消そうとするかのように、太樹の幹の固さの両脚にチャンミンは腰骨をぶつける。
 溶岩の灼熱にむせぶ声が、掻き消えた。代わりに、火傷しそうに熱した朱の一筋の流れを感じる。
 サイド・テーブルの紅い瓶。夜が明ける前の、風が寝室を通り過ぎ、紅の色が一瞬、蒼に変わった。

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