テキストサイズ

シアワセ

第2章 悲しい娘 喜一side



「……あの子から、あの子の口から…聞くつもりだ」
「………そうか」

兄は穏やかに微笑んだ。

「……しばらくは、ここに通わせてもらう」
「…あぁ、好きにしろ。……清華は……あの子は無理をしすぎるから…頼んだ」
「……兄貴?」
「…いや。あとは、お前に任せるよ」

兄は窓を見つめると、少し昔を思い出すような顔をして、こちらに顔を向ける

「……いい子だよ。あの子は」
「あぁ」
「…お前は、風俗嬢なんて…嫌いかもしれないけど……皆、必死なんだ。必死で生きているんだよ」
「…………でも、俺は…アイツだけは……あの女だけは…許すことは、できない」

手をにぎりしめる

一瞬、頭をよぎったあの優しい笑顔。

「…母だと、認めないつもりか?」
「……あぁ」
「…そう、か。まだ、早いかもな」
「……とにかく、俺はあの子を知りたい」
「…好きなのか?」

その問いかけに言葉がつまる

「…分からない。ただ俺は…知りたいだけなんだ、単純に」
「……そうか」

兄はまた同じように穏やかに微笑んだ


「じゃあ、帰る」
「あぁ、気をつけて帰れ」
「……あ、そういえば。さっきの女の人、兄貴の彼女か?」
「…………まぁな。彼女も、また、必死で生きている一人だ」

俺は、兄貴の少し愛おしそうな顔を見つめる

あんな顔もするのか

「…秘密にしといてやる。名前も、出してないんだろう?」
「あぁ、由利恵だけだ。俺の本名を知っているのは」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ