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君の隣の相棒さん、

第43章 変わらない38.1℃(伊)

「無理して笑わなくていいですから。…俺の前では普段の朔さんじゃなくてもいいんです‥」



そのために合鍵も渡したんですから、と付け足して無意識に握った彼女の手に力がこもる。
俺の手に彼女のもう片方の手が重なると不意に彼女がいう。



『駄目だな私。…伊丹さんといるとつい、甘えてしまいたくなる』



小さく俯いている彼女の声は小さく震えていて、その震えは腕を通して俺にも伝わってくる。
次の瞬間、俺は彼女を抱き締めていた。



「…風邪、写したらすいません」



そう言って右肩に彼女を引き寄せるとそっとベッドに腰かけていた体勢が変わって、平気ですと呟いた彼女の腕が背中に回って来る。
壁に寄りかかると彼女はその身を俺に預けて来て、俺はただ黙って背中を擦っていた。



『煙草、一日吸わないだけで抜けましたね。‥本当の伊丹さんの匂いがします』


「本当の俺、ですか?」


『一言では言い表せませんが、とにかく気持ちが落ち着きます』


「そう‥ですか。俺も、朔さんとこうしていると落ち着きます」



一緒ですね、と彼女があまりにも儚い表情で笑みを浮かべていうものだから俺の胸はまたなんとも言えず締め付けられる。

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