テキストサイズ

君の隣の相棒さん、

第48章 カラフルドロップ(SS)



雨。周りの音が聞こえないほどに降り始めて、どことなく気分を落とされる。
正直、あまり雨は好きではない。そもそも雨が好きな人間なんているのか、そんなことを考えていると何気なく脚を向けた屋上で一人佇む男の姿を目にする。



「伊丹さん…?いや、そんなわけ‥‥」



あまりにも似ているその後ろ姿に近付けば、少し華奢で細身のダークスーツ。
何より本来の伊丹さんよりも少しばかり低い身長で本人ではないと分かった。
そして暗い空を見上げるその人が男装をした女性であることは横顔の美しさで分かる。


彼女の名前を呼んだ俺に振り向くなりすぐに顔を背けて俯く。
濡れた肌に少し腫れた目元。そう…彼女は泣いていた。
俺は思わず彼女を背中から抱き締めるとその身体を屋根のある場所まで連れ込む。



「泣かないで‥‥」



雨で濡れて頬を伝い滴る雫は彼女の美しさを引き出し、男装をしたままでもやはり彼女は彼女だと分かる。


壁に押し付けた彼女を見るとやはり俯いて俺を見ようとはしない。その時、俺は敢えて何も言わず彼女を暫く見ているだけだった。
理由は一つ、彼女の涙の理由を知っているから。
彼女が此処に来るのは実は初めてではない。雨になると訪れて、ある過去を思い出していた。



「大丈夫です。俺が居ますから」



はっ、として見上げた彼女に送る口づけ。慰めも含めた温もり。
冷えきった唇を温める様に何度も何度も啄めむような口づけを繰り返す。
段々と息が乱れ、濡れて身体に張り付いたワイシャツのボタンを外すと耳、首筋の順に唇を寄せて舌を沿わせる。



「はっ、凄く綺麗ですよ‥」


『んっ、やっ‥!ぁ…っ!』



雨音で消される彼女の声は俺の耳にだけ響く。
下半身に滑らせた手は彼女自身を捕らえるとそこに沈ませる。雨音で消されながらも伝わってくる彼女の感覚に理性が保てず、遂に彼女の中へと腰を沈めた。

やがて上がる雨とともに二人で達すると彼女から離れ、隣に座ってまた抱き締める。
すると彼女が呟くように口を開いた。



『いつも、ありがとう御座います‥』





(ブラックな珈琲味)
(雨に打たれて悩殺。感謝に複雑)

ストーリーメニュー

TOPTOPへ