君の隣の相棒さん、
第48章 カラフルドロップ(SS)
夜、今日の業務を終えて一人警視庁を出る。
今日は先に帰らせた恋人が俺の家で待っている。
明日は二人に取って久しぶりの貴重な非番だった。
「帰ったぞ。朔‥‥朔?」
呼んでも返事はない。リビングまで行くと黒いソファーに人影を見つけて近付けば驚き、一瞬神戸かと思ったがすぐに男装した彼女だと分かった。
『は‥るき‥さん‥‥っ』
ソファーに身を預けて眠っている彼女の隣に座る。
何故家に来てまで男装なのかと不思議に思っていると寝言が聞こえた。
そんな彼女を愛しく感じながら髪を撫でると薄く目を開いた。
『ぁ…お帰りなさい』
「ああ、ただいま」
ふわりと起き上がった彼女が少し眠い目を擦りながら俺を見るその姿は男装のせいか神戸の面影と重なる。
「…また男装か。飽きないのか?」
『‥春樹さんの為です』
「私の、ため?‥‥まさか」
俺の言葉に頷く彼女は、誰の同期だと思っているんですかと神戸の存在を諭す。
彼女はまだ知らないとばかり思っていた俺の“秘密”を既に知っているらしい。
彼女はその秘密を普通に淡々と話していた。
「嫌では、ないのか…?」
『いえ‥‥私も、春樹さんと同じなんです』
「…?一体どういう‥‥」
『私も好きだったんです。‥‥同性が』
彼女が同性好きを知ったのは大学の時。相手は中学からずっと一緒だった親友で、あるときその親友が異性を好きになったことがきっかけで酷く落ち込む時期があった。
そんなとき出逢ったのが神戸。神戸といることでその親友への気持ちに踏ん切りがつき、警察官になるために神戸と道を歩めたと話してくれた。
「そう、だったのか‥」
『気持ち、良く分かるんです。春樹さんは大切な人を…あっ‥‥』
しまった、という顔をする彼女。恐らく神戸からこの話───湊については禁句だからと聞かされていたのだろう。
焦って謝る彼女に俺はそっと手を握った。
「安心しなさい。私は平気だ」
次の瞬間、彼女の微笑みで心が安らぐのを感じていた。
あぁ、だから俺の為なのか‥‥
(ワインレッドな林檎味)
(そして落とされた林檎は黒く赤い、毒林檎)