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ずっと君を愛してる

第1章 待ち続ける覚悟

今日は雑誌の料理ページの撮影だった。
美味しそうな料理を撮っていたら、自分でも
作ってみたくなって久しぶりに、自炊して
みることにした。

駅前のスーパーで買い物をする。ふと目に
ついてワインもかごに入れる。静流が初めて
ドーナツビスケット以外のものを食べている
のをみた日、すなわちぼくの家での同居が
始まった日。
あの日も静流とワインを飲んだ。
「ほうれん草のソテー オーロラ風」そうだ。
あれも作ろう。
静流の作ってくれた、最高に美味しい料理。
ぼくは、野菜売り場に戻る。

静流。

彼女が突然ぼくの家を出てから2年の月日が流れた。
一緒に暮らした時間のほうが短いのに、静流がいた時間の中には、収まりきらないほどの静流があふれている。
あの時からぼくの部屋のレイアウトは少しも変わらず、ビーンズクッションも本棚の本も暗室もそのままだ。
静流がこの家に戻って来たときに、迷わないように。会えなかった時間なんて、なかったことにできるように。

静流が出ていく数時間前に、ぼく達はキスをした。それは、静流が誕生日プレゼントの代わりにほしいと言ったからだ。
あの森のナナカマドの木の下で。
静流はそれをセルフポートレートで何枚も撮った。キスをしている間じゅう、ずっとずっと…。だからぼくはいつキスを止めていいのかわからなかった。
結局、セルフポートレートはフィルム一本分になった。

…あの写真、どうなったんだろう…

一緒に現像して、一緒に眺めて、そこから始まるんだと思っていた。
もっと早くに一歩を踏み出していれば。
それが唯一心残りだ。
だからぼくは、この家で静流を待ち続けることにした。

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