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ずっと君を愛してる

第19章 ふたりを繋いだもの

「…しかしまぁ…人生ってわかんねーよな」

ワインの残るグラスを持ち上げて、関口が言った。由香とみゆきは帰り、静流は子どもたちと眠ってしまったようだ。ダイニングには男3人、心地よい酔いにまかせて思い思いのことを話す。

「俺も、結婚するわ」

「え?」「は?」

白浜の宣言にぼくと関口は思わず身を乗り出す。

「…瀬川のこと見てたらさ、純粋に結婚っていいなと思ったんだよ。それだけだよ。おまえ、いい顔してるもんなあ」
「おれも思った!おまえさ、何年か前の月イチ会の忘年会で、」
「あ!覚えてる!いきなり、なんかいい雰囲気出しちゃってたよな。」
「な、なんのことだよ?」
「そうやって本人が気付いてないのも魅力なんだろうなあ」

パリにいたころ、色んなことを考えすぎて笑うことすら忘れていたのが嘘のように今、ぼくは笑っている。
ここに帰ってきて、静流と子どもたちと暮らし、かつての友達と夜遅くまで飲みながら話をする。
1年先には忘れていそうな毎日が、ぼくにとっては何よりも大切であることを気づかせてくれる。
何かをしなければ、結果をださなければ、そんなふうに、もがくぼくもまた、ここにいるぼくに変わりはない。でもいま、愛する人がいる風景を撮り、それを仕事にしているぼくが一番ぼくらしいということ。

いつか静流が言った。

『誠人は仕事なんてしないで、写真だけ撮ってればいいのよ』
『じゃあどうやって生活するんだよ?』
『草とか食べてれば?』

ものすごくいい加減に、無責任に静流は言ったけどあながちハズレでもないのかな。
ガチガチじゃない人生。
その時目の前にあらわれた現実を受け入れて生きる人生。
草は食べないし、仕事もするけど、君とこの子たちを精一杯しあわせにするためにぼくは生きていくよ。

眠ってしまった友人に毛布をかけ、もう少しひとりで飲むために庭に出た。

しんと静まり返った夜の空気が冷たい。花冷え、と言うんだろうか。

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