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G線上のアリア

第2章 家族になろう

今も鞄から出した本を手に取り、隙間から朔夜の様子を伺っているだけだ。
《金曜日は案内出来なかったし…放課後の方がいいよね》
人だかりが根本に苦手な夢叶が溜息をついた。
「何、溜息ついてんだ?」
いつの間に来たのだろうか。朔夜が机に手をついて手元の本を覗き込んでいる。
「え!?…な、何……って、あ……案内、どうす…る?」
今、現在は三時間目を終えた休み時間で。後一時間でお昼となる。別段誰とも食事を取る訳ではない夢叶なので、時間は幾らでもあるのだが―――朔夜の周囲は人の波が途切れることもなくて。
「僕じゃなくて誰かの案内でもいいかもね…」
思わず口について出た言葉に、朔夜がきょとんとした瞳で夢叶を見た。視線には若干睨みが入っている気がしたのだが。
「………放課後にする?」
思わず迫力に押されて呟いてしまった夢叶。
「じゃ、約束だからな!」
嬉しそう…に見える笑みを浮かべて、覗き込んできた朔夜にドキッと悪戯に胸が鳴る。
ジッと見つめてくる癖はお互い様で、夢叶は朔夜の視線で塊になってしまい。朔夜は微妙に読めない表情で首を傾げていた。
微妙な空気を割る始業のチャイムが響く。
「あ、ほら…先生来るし、ね?」
自分で何でこんなに慌てているのか―――理由だけははっきりとしている夢叶が急かして、背を押すとまだ何か思考を取り残していた朔夜が、小首を傾げて戻っていった。
《あぶなーいっ、ってか……アホ、だね…僕》
思わず心の中でツッコミをいれてしまった。
授業が始まると、朔夜の前の学校と大して遅れは変わらないのか―――朔夜は、転校生だということで先生に指名されても、動じることなく流暢に英語を答えた。
《……なんか、朔夜って遠い…》
心でぼそっと呟く夢叶だが、ぼんやりとしていると指名を受けて即座に返すのだが。
「正解だ」
ほっと息をついて席に座る。夢叶は運動の一切が苦手な代わりに、取り入れる知識や勉強には苦がない。

「今日はここまで」

先生の言葉が一瞬素通りした時、終業のチャイムが鳴り響く。室内では一気に昼食の空気が広がり、それぞれ仲のいい相手の所へ行く者。招くもの―――食堂などの別場所へ食事を求める者とあった。

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