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G線上のアリア

第3章 学校

言うと同時に駆け出していく青葉の表情を見ていると、夢叶はよほど相手の女子が好きなのだろうと分かる。
《やっぱり好きな人を思うときって、男女なく…表情輝くよね…》
見ているだけでほのぼのとしてしまう。どっかのんびりとした夢叶だった。
「さてと…」
授業も終わったし、後は帰るだけとなった夢叶は鞄の中に本日の授業で使った教科書や、ノートをしまいだす。チラッと視線を後ろに向けて見ると、朔夜の周囲にはやはり人の波があり、誘っていいのか―――どうしようか。悩んでいると朔夜の方が気がつき、手を振って駆け寄ってくる。

「今度は逃がさないぞ?」

机に片手をついて覗き込んでくる朔夜に、密かに胸のうちでチャペルがリンリンと音を奏でるのだが。表情は凍ったように硬く笑みを返す。
「逃がさないって…そんな…逃げないよ」
自分でもはっきりと表情が凍り付いているのがわかったのだが、あえて朔夜はそれに気がつかないのか。それともフリをしているのか。
「じゃ、構内案内してくれよ」
憮然と腕を腰に当てて言った。どうしようと思うほどのチャペルがリンリンと鳴るのだが、それをぐっと押さえ込むように夢叶が立ち上がる。
「任せて…」
にっこりと笑みを浮かべれば、母親に似て愛らしい顔をしている。(しかも普段は滅多に笑わない夢叶だ)一瞬教室では変にピンク色の風が流れた。

「?」

きょとんとする夢叶の背中をぽんぽんと叩く朔夜が、夢叶の鞄を持ち上げる。
「行くぞ」
「鞄ぐらい自分で持てます」
両手を差し出して待つと、じっと朔夜が夢叶を見てから、そっけなくその手に鞄を渡した。

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