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G線上のアリア

第6章 本当に怖いこと


「恋愛感情は本当にもう無いの?」

重ねて聞く真似はしたくないと思いつつ、どうしても尋ねずにおけなかった朔夜が言うと夢叶は満面の笑顔で小さく頷いた。
「だって過去だから…過去は過ぎてしまえばどれほどの痛みだってその内に優しい思い出になってしまうもの」
大切そうに幼稚園の卒業アルバムを片手に、夢叶はまっすぐ朔夜に向かい言葉にした。
「大切なのは『今』のこの『瞬間』だって思っている。朔夜が僕を好きで居てくれるなら、これだけは覚えていて欲しいんだ」
淡く笑いながら朔夜の強張った手の甲に、夢叶はゆっくりと自分の利き手を重ねた。
「これからの人生はどうなるか分からない。男の子を恋人にすることも、想いが通じたのも初めてだから分からないことばかりだけど………覚えておいて。…大切なのは『今、この瞬間』だといいうこと」
「………意味が分からない」
「今は分からなくてもいい…だから胸に留めてくれるだけでいいんだ」
座り込んでしまい。まるで虚脱したように夢叶を見る朔夜の肩に触れた。
「泣きそうな顔しないでよ。僕は朔夜を苛めてなんかないんだし…ね?」
小首を傾げて覗き込んだ夢叶を、朔夜は訳も分からずに抱きしめた。
「ちょっ…痛いって…」
体育会系である朔夜の抱擁は強く、夢叶は文系の痛みを訴えたが、その泣きそうな表情の前にそれ以上は身動きせず、額を彼の頭に寄せてみた。

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