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G線上のアリア

第6章 本当に怖いこと

「正直に言えばいいじゃないか!初恋の君だって!」
言葉を聞いた夢叶は立ち上がった朔夜を見上げた。
眉間を顰めてそれから軽く俯く。冷静にならなくては思った朔夜が出ようとした足を、一つ先に夢叶はズボンを握ることで止めた。

「懐かしかったんだよ…」
ズボンの裾を持ったまま、瞳を上げて見る夢叶をこんがらがった感情で見下ろしたまま朔夜は口にした。
「…彼はヘテロだよ…僕らとは違う。それに本当に懐かしかった一瞬を思い出しただけなんだって」
言葉を纏めるより先に口に出して、必死に心情を伝えようとする夢叶に朔夜は振り切る真似も出来ずに、もう一度夢叶の隣に腰を落とした。
手を離した夢叶はホッとしたと言わんばかりに吐息をつき、散らかしたアルバムを手に取り本棚へと直していく。傍にあったアルバムを手にし、それを渡すと夢叶は一冊一冊を丁寧に、年齢順にきちんと収めていった。
「几帳面だな…」
「そうかな?…」
高さの優劣はややあるものの、卒業年齢に合わせた直し方に朔夜は感心した。
「俺は適当にどっかに直したからな」
それこそ此処へ来て以来、一度も触っているところを目にしたことが無い夢叶は小首を傾げる。朔夜は大雑把な部分も多々あり、押入れの奥へ箱ごとぶち込んでそのままにしているというのが本当だった。

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