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G線上のアリア

第7章 信じてほしい

口元を押さえ、今にも吐きそうに顔を顰める朔夜を強く抱き返してみた。
「ごめんね…古傷抉ったみたいだ」
後悔という言葉に滲む寂寥感が、強く夢叶の心をさいなんだ。

そんなつもりはなかった―――という言葉は、詭弁以外の何者でもないのかも知れない。それでもあの日の残像は、強烈に夢叶の奥に残っている。
人々が笑い、偽りに互いを誉めあい甘さに薄寒い光景の中で、朔夜は吐き気を堪えて立っていた。
麗華が手を滑らせて繋いでくるのを、きょとんとしていた。
『お兄ちゃま…気持ち悪い?麗華ついていく』
そう言いながら親戚に捕まっていた朔夜の腕を取り、人波からすり抜けようと歩いていた。


我侭で、女を持つ妹という存在。



好きになどなれやしなかった。
麗華の姿は一番穢れた存在を強く思い出させる。
「朔夜………?」
「………っ」
「吐く?吐いていいよ!」
そう言いながら夢叶は自分のシャツを引っ張り出して、朔夜の前に差し出した。
「此処に吐いていいから」
側にゴミ箱がない。彷徨う時間はないと判断した夢叶は自分の着ていたシャツを彼の目の前に出す。
「此処なら大丈夫だから…」
背中を摩り、青ざめていた朔夜の前に広がる白。温かさが背中から、朔夜の忘れることが出来ない傷口を覆う。口元を押さえ、限界一杯の視界に見えた白。―――

「夢叶………っ!」

駄目だ。今の話で待つと決めたのに。
決めていたのに―――。
体が想いが意志を切断してしまう。







「夢叶が………欲しいよ……」

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