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G線上のアリア

第7章 信じてほしい

「朔夜は小さな女の子の手を引いて、人々の喧騒をかきわけて歩いていたんだ」
小さな女の子―――血の繋がりがまったくない妹の麗華だ。いつも膝に纏わりついてきた。
それを特別愛しいと思うこともなく、ぞんざいに扱うことは避けていただけの妹という肉の塊。女であるということ自体がたとえ共に暮らそうとも愛着はない。麗華の眼差しは『兄』という枠を超えていたことを朔夜は感じていた。植えつけられた女、という魔性を肌から学んだ。

「くや?…朔夜??」

ぼんやりと過去の残像に心を戻していたらしい。朔夜は夢叶の声に表情を亡くしたまま、顔をゆっくりと上げた。
「何…?」
「僕はね、その時の朔夜がとても寂しげに見えたんだ。…妹の手を引いて歩いている君が…」
印象というものが脳裏に焼きついた瞬間。夢叶は彼が去っていく方角をただ無心に瞳で追いかけた。
祖父は母である静香をことの他可愛がっていたらしい。一族で反対する中、祖父だけが母を許していた。
祖父が心筋梗塞で倒れた後、最後に開かれた茶会だったから、静香は意を決して祖父の誘いに乗り。わが子であり孫である夢叶を紹介する為だけに催しに参加した。

「………寂しいか…」

ぽつりと小さく呟いた言葉に、夢叶は迷いながらも小さく頷いた。
たったひとりで手を繋いでいる妹さえ、眼中にはまったく入っていなかった姿。それを痛々しいほどに隠そうとする姿は感受性が豊な方である夢叶に映った姿であった。
「僕は恋人である前に朔夜の肉親だから…」
苦い思い出を覚醒した苦しさに、息が少しばかり止まりそうだ。
壊れ物である愛しさを抱きしめる。夢叶の肢体を震える指先が触れた。

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