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第1章 彼



衣服の乱れもなく
胸の上に
両腕を乗せ


眠るように
佇む彼


ガラステーブルに
白い紙コップが
三つ


朝昼晩と
書かれた
文字


末期の膵臓癌だった彼


処方された薬が
紙コップに
残っていた


抗がん剤の
治療を受けず


余命宣告を
心身に受け入れ


退院して
僅か
数日後の出来事


前日
予定していた約束を
“会社に行く”と
愛想なく断られ


僕は
不機嫌な態度で
不愉快な妥協を
告げた



それが
彼との
最後の会話になるとは


想像も
していなかった


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