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優しいキスをして

第6章 秘密の恋人たち

苦しい程の愛しさが俺の中に込み上げてきた……。
「……っ、……っとも、……っく。くるしっ……」
夢中で抱き締めていると美優の呻くような声で我に返った。
「ごめん……」
俺は力を緩めて美優から少し体を離した。
美優は呼吸を整えると、少しばかり微笑んだ。
「あたしね、こんなときが来ると思ってたの。だから、今からでも始めてもいいかなって仕事を、実は時々探してたの。ともくんは美容師じゃないとダメだよ。だって、ともくんはこの仕事好きでしょ?」
俺は俯いたまま言った。
「……そうだけど」
美優は俺の力なく体の横に下ろしている右手を取ると、両手で包み込んだ。
「だから……辞めないで?お願い。それとも、……罪悪感を感じるくらいなら別れた方が良かった?」
俺はばっと顔を上げた。
「ばか言うな!……でも、お前の道を閉ざす気もなかった。俺は、一緒に続けたかった……」
「ごめんね……。あたしは美容師を続けるよりも別れたくない方が先だったから、だから、あんなふうに言っちゃった」
「……後悔、してないのか?」
「後悔はないとは言えないけど、でも、あたしにはそろそろ潮時だったのかなって思ってるから」
「……ごめんな。俺のせいで……ごめんっ」
「ともくん……謝らないで。あたしはこれでいいんだよ」
美優はただ優しく微笑んでくれた。
俺は美優の眩しすぎる笑顔をぼうっと見つめた。
美容師しか長年してなかった俺のことを考えての決断だったのだろう……。
美優は、俺のために自分の夢を半ば捨ててまで俺を選んでくれたんだ……。
お前は自分のことを汚れてると前に言ったけれど、そんなことない。
やっぱり、お前は純粋で綺麗で、どこまでも透き通っている……。
いざというとき、俺が守ってやるって言ったのに、……逆にお前に守られるなんて……。
俺は、美優の唇を奪うようにキスをするとまた抱き締めた。
美優は最初びっくりしたような顔をしたが、俺が抱き締めると、頬を凭れて美優も両手を俺の背中に回した。
……これからは、俺が守るから……。
だから、これからも俺だけを見てくれ……。
お前が愛しくて、たまらない……。
俺は美優を抱き締めたまま言った。
「美優……」
「……なに?」

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