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優しいキスをして

第4章 躯で躯を結ぶ

今日は月の最後の日。
毎月末の営業終了後は会社の全体会議がある。
全体会議が終わった夜10時過ぎ。
この日だけは全店のスタッフが本店に勢揃いする。会議が終われば久々に会うもの同士、気の合うもの同士で個々に別れて食事に行ったり飲みに行ったり、みんなが賑わう日だ。
「「お疲れー!」」
あたしは皆がわいわい話す中、一人あいさつすると本店を出た。出ると駐車場でも半分以上のスタッフが5、6人ずつつるんでまだ残って話し込んでいた。
あたしはその横をお疲れさまでーすと小さく言いながら通り過ぎていく。
「須藤さん、もう帰るんですかー?」
あたしに気がついた菜月ちゃんが話しかけてきた。
「うん、お疲れさま」
あたしは菜月ちゃんと目が合うが立ち止まることもなく小さく笑って言った。
「お疲れ、さま、です……」
菜月ちゃんのたじろいだ声が背中に聞こえるが聞こえないふりをした。
そんなにあたし、怖い顔してたかな……。
あたしは最近誰も寄せ付けない負の空気を発しているようだ。
前回の店長会議で大沢さんや田橋さんに言われた。気だるそうで、妖しい雰囲気さえ醸し出し、目が合うと凍りつきそうなくらい冷たい目をしていると。
あんなまともじゃない荒れた生活を送っていれば無理もない。そんなあたしを指差して、最近男性スタッフがあたしのことを口々に物言いしているのも知っている。
さっきも本店を出る前にあたしに聞こえないと思っているのか、隅の方で男の先輩3人が話しているのも聞こえないふりをして通り過ぎた。
「須藤、最近ハンパないらしいな」
「相当男喰ってるらしいぜ?」
「セフレが100人はいるとか」
「マジ!?」
「どんなテク持ってるんだろうな」
「あの体だしな。最近ますますエロい体つきになってきたし」
「一回俺も声かけてみよっかなー」
「お前じゃ相手にしてもらえねぇってっ。やめとけー」
3人で口々に言って盛り上がっていた。
あんたらなんかとヤるかってーの……。
あたしは同僚先輩後輩には手は出さない。
仕事がやりにくくなるのはめんどくさいからだ。
あたしは鼻で笑って聞き流した。
今日は到着が遅くて本店の駐車場が満車になってしまったので、道向かいの本屋に車を停めていた。
道路を渡ろうと車が途切れるの待っていた。
この時間、まだこの道は交通量が激しい。
すると、誰かが小走りで近づいてきた。

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