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優しいキスをして

第4章 躯で躯を結ぶ

「須藤さん、これからみんなで飯食いに行くんだけど一緒に行かない?」
声のした方を向くと、北澤さんが立っていた。
あたしは目も合わせずに車の切れ間を確認しながら言った。
「あたし、約束あるから……また今度ね」
「また刺青くん?」
「今日は違う。最近ひっかけた新顔くん」
「また違う男かよ……」
「別にいいでしょ?誰にも迷惑かけてないんだから」
「……ねえ、もうやめなよ。周りにどんなこと言われてるか知ってるだろ?さっきだって……」
ちょうど通行の車が途切れ、あたしは小走りで渡りながら言った。
「北澤さんには関係ないでしょー。じゃあね」
「待てよ!」
道路を渡りきったあたりで北澤さんに左手を掴まれ、引っ張られた。いつもの穏やかな顔とは違う、悲しそうな、怒った顔をしていた。
「いつまでこんなことしてんの?そんなに男とヤりたいの?」
あたしは一気に頭に血が昇った。
おもいっきり北澤さんを睨む。
「関係ないんだからほっといてよ!この世に男なんて掃いて棄てる程いる。あっちだってあたしを利用してる。あたしだって利用したっていいでしょ!?」
「なんでそんなに自棄になってんだよ。利用するってなんだよ!」
「あたしは自棄になんてなってない!離してよ!」
あたしは掴まれた腕を無理矢理振りほどこうとしたが、北澤さんは逆にあたしの腕を引っ張り上げた。
「なってんだろ!こんなろくに力も入らないぐらいの癖にっ、弱った体でまだ続ける気かよ!」
その言葉に、あたしは目を見開いた。
あたしは…………。
あたしは涙が滲んできたのを感じて俯いた。
「あたしは、ただ欲望に駆られてるわけじゃない……。誰かに体を任せてないと、傷を埋めないと、あの人を思い出して、辛いんだよ……」
「なんだよ、それ……」
北澤さんのあたしの手首を掴んだ手の力が緩んだ。

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