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優しいキスをして

第5章 闇の向こうの光

女の人がまたナイフの切っ先をあたしに向けて飛びかかってきたのはわかっていたが、あたしは反応に少し遅れてしまった。
咄嗟に避けたが、右頬をかすかにナイフが掠めた。頬がどくどくと熱くなるのを感じた。
……百夜……だって?この人、言ったよね……。
あたしは女の人を見つめた。
「あんたなんてっ、死ねばいいのよ!」
女の人はまたナイフを振りかぶった。
この人は、……百夜の、彼女なの?
「杏里!?お前なにやってんだ!?」
……マサキ?
少し離れたところにマサキの姿が見えた。
走ってすぐそばまで来ると、さすっきまであたしにナイフを向けていた女の人に怒鳴った。
「お前馬鹿なことしてんじゃねえよ!」
マサキを見て、一度怯んでいた杏里とかゆー人はあたしにまた飛びかかろうとしていたが、マサキは素早く杏里さんの手首を掴んで動きを止めた。
「あんたをあたしから奪ったこの女を許せない!こんな女消してやるわ!」
「馬鹿なことすんな!」
「離して!離してよう!」
あたしはボーッとその様を見ていた。
…………一体、どういうこと?
マサキは暴れる杏里さんからナイフを取り上げるとその辺の植え込みに捨てた。
杏里さんは地ベタに座り込み泣き出してしまった。
マサキはため息をつくと、しゃがんで杏里さんの手を掴んだ。
「あとでちゃんと話するから、俺の車で待ってろ。な?」
マサキは優しく言うと杏里さんに車のキーを握らせた。
「……うっ、ん。わかった……」
杏里さんは鍵を受けとるとあたしを一瞬見てきっと睨んだが、すぐにフラフラと歩っていった。
マサキは杏里さんが車に乗り込むのを確認すると、あたしの方を向いた。
「美優ごめんな。危ない目にあわせて。ここ、あいつにやられたのか?」
そう言ってあたしの血が出ている辺りの箇所を自分の頬で指差した。
あたしはもうそんなことどうでもよかった。
あたしはマサキをじっと見つめた。
「…………それよりも、あの人。あんたのこと、……百夜って呼んでた。どうゆーこと?」
「…………っ」
マサキは目を見開いた。
あたしは全身に血が巡るような感覚に襲われ、思わずマサキの服を掴んで揺さぶった。
「あんた、ホントに、……百夜、なの?……マサキじゃないの?」

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