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顧みすれば

第10章 急接近

「そろそろ 帰ろうか」

常務が はい と手を伸ばしてくる。

私はくすぐったい感覚で

「はい」

常務の手をとって歩き出した。


車に戻ってエンジンをかける。

「ねえ、なんか食って帰らない?
 腹減っちゃった」

急に子供みたいだ

「いいですよ」

「嫌いなものある?」

「特にないです」

「りょーかい♪」

常務は楽しそうに車を走らせた。

丘を降りて元町に向かった。

運河沿いに車を止める。


「少し歩くよ」

車を降りると常務が手を差し出してきた

「ここは暗くないですよ」

「だーめ。転んだら危ないでしょ。
 はい」

おかしな人だ。
明るい街灯に照らされながら手を繋いで歩いた。

着いた店はスペインバル
中からは賑やかな声が聞こえてくる


扉を開けて

「Hola♪」

と常務は入っていく。

店員が常務に目をやり

「Ho~la♪」

と嬉しそうに近づいてきた

「La energia?」

「Mui bien.」

店員が私の方をチラリと見て

「Es encantadora su.」

と常務に視線を投げる

「Es el cortejo.」

常務の顔も意味深だ

「Ya veo」

店員はにこやかに私たちを
奥のテーブルへと案内した。

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