しのぶ
第5章 5・真実の影
「前田は取り込み、上杉と毛利はもはや掌の上。あなた様が一番怖いのは、日の本の端でくすぶる火種でしょう? 私が、消してきても構いません」
「それが、お主のお願いか?」
「いえ……災いは私が消しますから、毛利の改易を考え直していただきたいのです」
志信は手を離すと、神妙な面持ちで頭を下げる。馴れ馴れしい態度とは一変した様子に、ますます家康は心を引き締めた。
「本領安堵とまでは言いません。少しの領地と、家名だけお約束出来ればいいのです。当主の輝元は、あなた様を脅かす器ではありません。ですから、どうか」
「……そこまで毛利にこだわるのは、何故だ? お主は儂の忍び、ならば毛利の改易を望むのが筋だろう。毛利は改易、島津は暗殺、これが徳川にとって一番理想の形だ」
「それは……」
「毛利内部に潜入して、心変わりしたか」
家康の言葉に、思わず志信は顔を上げる。そしてうろたえながら、大声でそれを否定した。
「違います! 私の志も信も、あなた様だけの――」
だがその言葉は、家康が志信の目に手を当て、目隠しした事で遮られた。
「そのような嘘で、儂が誤魔化されると思うな」