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しのぶ

第5章 5・真実の影

 
 家康は片手で志信を畳に縫いつけると、目を覆ったまま装束の前を緩める。

「儂への忠義が真と申すなら、なんでも出来るのだろう? ほら、鳴いてみせよ」

 目隠しされた志信の胸に伝わるのは、志信を感じさせようと弄る老いた手。それが胸の飾りに触れた瞬間、志信は大きく身を震わせる。

 と、同時に、解放される視界。志信の目に入った家康は、欲ではない、温かな瞳で志信を見つめていた。

「馬鹿者、自分が今どんな顔をしているか、分かっているか? 顔は真っ青で、目から涙をほろほろ零して……それではもう、色仕掛けは無理だな」

 家康は志信を座らせ、自分も向かい合う。

「儂とて息子同然のお主に手を出すほど、節操のない人間ではない。だから、志信……お主の真を、きちんと打ち明けよ」

「家康様……」

 志信の瞳に、また涙が溜まる。それを隠すように目を擦ると、志信はようやく口を開いた。

「……先程も申し上げましたが、もはや毛利は家康様の驚異となる力を持っていません。しかし、彼らは――優しいのです」

「優しい?」
 

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