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しのぶ

第6章 6・遺恨の花

 






 関ヶ原の戦いの後、大坂を押さえていた毛利家は、領土の安堵を条件に徳川方へ大坂城を明け渡した。しかし、その後徳川はその約束を反古にし、毛利家へ改易を求める。毛利家はもちろん東軍についた吉川も交渉を続ける中、毛利一門には不安が広がっていた。

 元康の治める荒谷も、重い空気が常に漂っていた。一年前の謀反、一揆を起こされてしまった不手際、要請されていたにも関わらず大坂城へ援軍を出せなかった責任。そこへ毛利宗家の地盤が揺らぐとなれば、荒谷の人間が恐れるのは元康の失脚である。改易となればもちろん、減封や転封となっても、今の失態を考えれば取り潰しの候補となるのは間違いない。元康の危機は、戦が終わっても続いていた。

「元康様、またお食事を残されたようで……皆、心配していますよ」

 仕事以外の時間は自室に籠もってばかりの元康を心配し、一人の小姓が部屋へ現れる。小姓は、何をするでもなく膝を抱えて座る元康の前に跪くと、元康の手を握った。

「あまり気を落とさないでください。一揆の主犯は先日斬首致しましたし、元康様の面目は保たれています」
 

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