しのぶ
第6章 6・遺恨の花
「……下手な慰めは止めろ。俺の面目など、とっくに潰れて粉々だ。どうせ皆、俺が一年前に死んで小山が荒谷を治めていれば良かったと思っているんだろう」
「元康様……」
淀む元康の瞳を、小姓は真っ直ぐに見られなかった。一度失態を犯せば、長年仕えた主でもすぐに見限り、新たな統率者の座を望み狙うのが武士という生き物。今誰も動かないのは、毛利宗家が危うい立場にあるため。その事実を、否定は出来なかった。
「黒幕さえ、捕縛すれば」
代わりに小姓の口から出たのは、憎しみのこもった声だった。
「全てを仕組んだ黒幕さえ処罰すれば、元康様の権威も回復出来るのに……」
元康の面目を潰した大半の原因である一揆。それを起こした草野は斬首しても、事件はまだ終わりを迎えてはいない。草野一人では成し得ない資金を調達した黒幕、それを野放しにしている限り、荒谷に安堵はない。
「志信……か。今頃あいつは家康の元だ。引き渡しなど、求められるはずがない」
今まさに毛利や吉川が交渉中であるというのに、一揆の話を持ち出し志信の引き渡しなど求めれば、交渉どころではなくなる。