しのぶ
第6章 6・遺恨の花
元康が再び爪を噛んでも、頭を下げている志信はもはやそれを止められない。だが、顔を上げずとも、元康が悩んでいるのは分かっていた。
「――どうせ私は遺恨の花です。散らすなら、あなたの手で散らされたい。私の幸せを望むなら、どうか私を踏み台にしてください」
すらりと、刀を鞘から抜く音が響く。それを聞いて志信は穏やかな笑みを浮かべ、目を閉じた。
「……しの、本当にこれしか、道はないのか?」
問い掛ける元康の声は、嘆きを隠そうとはしていなかった。
「……やはりあなたも、優しい方だ」
元康は立ち上がり、刀を構える。よくよく見てみれば刀は鋭く手入れされており、万に一つも切りこぼしのないように出来ていた。
「俺も、お前を愛していたよ。志信」
溢れ出す涙を拭っても、涙はきりがない。元康は諦めて頬を濡らしたまま刀を上段まで振り上げ、志信の首に狙いを定めた。
花が散るように、血がひとひら床に飛び散る。刀は確かに、肉を切る感触を元康の手に伝えていた。
つづく