しのぶ
第7章 7・しのぶ
転がる首に、元康が抱くのは疑問であった。
「誰だ、これは……」
志信の首は、繋がったままだった。刀を振り下ろした瞬間、部屋の扉が開き斬首を阻止しようと生首が飛んできたのだ。勢い余って元康は誰ともしれない首を切ってしまったが、そのお陰で志信を殺す事は出来なかった。
「これは……」
予想もしていない生首に、覚悟を決めた志信も驚き顔を上げてしまう。すると生首に続き、一人の人間が部屋へ乱入してきた。
「良かった、間に合って」
現れたのは、毛利を裏切り徳川方についたはずの小早川秀秋。元康にとっては、顔も見たくない宿敵だった。
「な、なんの用だ! この生首はなんだ、何を考えている!?」
元康は今にも噛みつかんばかりに警戒するが、秀秋は一瞥もくれず、志信の前に座る。
「家康様の言う通りだったね。急いで来て良かったよ」
「し……しのぶに触るな! 裏切り者のくせに!」
元康は刀を秀秋に突きつけようとするが、振り向いた秀秋の表情に背筋を凍らせる。人の感情など一欠片もない、かつて小山が元康に向けた殺意の目。元康より年下であるはずなのに、秀秋の気迫は並みの人間を超えていた。