しのぶ
第7章 7・しのぶ
「志信を殺そうとした君に、何か言える資格があるとでも? 余計な口を挟むなら……鬼が暴れるよ」
秀秋は愚鈍で臆病な一方、一度怒りを覚えると、血も涙もなく相手を虐殺すると噂されている。その噂通り、元康に向けるのは鬼の目だった。
「秀秋様、あまり殿を睨まないでください。私が殺してほしいと懇願したのですから」
志信が口を挟むと、途端に秀秋は穏やかな笑みに戻る。元康はそれも気に入らなかったが、凍った背筋のままで口出しは出来なかった。
「ああ、ごめん。でも志信が殺されるかと思ったら、鬼が疼いて」
「ご心配ありがとうございます。しかし……まさか生首を持参して国主自らがやってくるとは、中々珍しい」
「家康様から話を聞いて、いてもたってもいられなくなったんだよ。志信はきっと死のうとするから、助けてやってくれって」
「家康様が……」
家康は志信に約束を言い渡しながら、初めから信用していなかったのだろう。とはいえ、家康の予想通り志信は約束を破るつもりでいたのだから、決まりが悪く口をつぐんでしまう。
「それに、僕との約束を破られるのも困るよ」