しのぶ
第7章 7・しのぶ
確かにこの書状があれば、元康が立て直す事は厳しくとも不可能ではない。どこまでも元康を想い行動していた志信。元康はその想いに、斬首で答えようとしていたのだ。あまりに浅慮である自分自身に、元康は膝を付きうなだれた。
「元康様、お顔を上げてください。そんな計画、真の忠義者が仕組む事ではありません。たとえ黒幕を作り上げたとしても、私があなたを裏切った事実には代わりありません。にも関わらず私は罪を償う気がなかったのですから」
「だって、それは毛利家の助命のため、どうしても帰らなければならなかったからだろう!? 結局お前は一から十まで、俺のために動いていたんじゃないか」
「……家康様への忠義を捨てれば、わざわざあなたに不利を起こす必要もありませんでした。しかし私は、家康様への情も捨てきれなかった。あなたのために動いた訳ではありません。私は、私のしたいようにしただけですよ」
しかし元康に、もう刀を握る力はなかった。たとえ志信が小山を殺し自分を追い詰めた裏切り者である事実が変わらなくとも、胸に抱くのは焦がれるばかりの愛情だけだった。