しのぶ
第7章 7・しのぶ
秀秋と志信の間で約束とは何事かと、元康はますます面白くなく顔をしかめる。だが秀秋が元康の方を振り返ると、先程の脅しもあって強くは出られなかった。
「志信は、最後まで元康の事を考えていたんだよ。一揆の黒幕が捕まらなければ、元康の権威は回復しない。けれど志信自身が殺されては、戦の後毛利の助命を家康様に懇願する事も出来ない。だから、黒幕を用意したんだ」
「黒幕を?」
「それがこの生首。名前は助六。僕の家臣で、一揆の扇動に一役買った人間だ」
秀秋は元康に、一枚の書状を渡す。それには、一揆の首謀者は小早川の家臣である助六の仕業である事、そして秀秋自身は何も知らず、関わっていない事が記されていた。そして最後には、徳川家の花押がしっかりと残されている。
「家康様は、この助六の首で一揆の全てを収束せよと命じている。皆、家康様直々の仲裁に、逆らったりはしないだろう?」
「それは、そうだが」
「僕も助六の横暴さには困っていたし、元康も名誉をこの首で回復出来る。志信も自らが死ぬ事なく、家康様から元康を庇う事が出来る。本来は、これが志信の仕組んだ計画だったんだ」