しのぶ
第7章 7・しのぶ
「輝サマ……?」
いつも穏やか、というより気の抜けた顔をしている輝元が、細める瞳に厳しさを見せる。ただならない様子に怒りを忘れ、ジュストは縮こまりながら輝元に声を掛けた。
「仕方ないね。小川家は……取り潰しだ」
「っ!」
朗らかな輝元とは思えない静かな声で呟いた言葉。ジュストは全身の血の気が引き、慌てて首を振る。
「違う……元康は騙されてるだけ! 志信が死ねば、元に戻る! ジュストは言い過ぎました、謝ります……ですから、取り潰しなんて」
「ジュストが怒ったから決めた訳じゃないよ。元康は荒谷の民を傷付けた裏切り者を自分で選んだんだ。つまりそれは、荒谷を元康に任せた輝への裏切り。処罰しなければ、輝も荒谷の民を裏切る事になる」
「でも、元康は騙されて……」
「騙されて道を誤るなら、元康に城主としての才覚はないという事だよ。騙されたなら仕方ない、なんて言われても、元康に生活を預けなきゃいけない民は納得出来ないでしょう?」
輝元の主張は、ジュストが反論する隙の一つもない程正論である。庇う言葉が見つからず、ジュストは唇を噛んだまま固まってしまった。