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しのぶ

第7章 7・しのぶ

 
 しかしだからこそ、隣に寄り添う悪魔のような男が邪魔であった。裏切り者のくせに腹心のような顔をしている無神経さ。忍びのくせに武士の真似事で身に着けた羽織。そのくせ月代は結わず、髪は頭の高い位置で一本に結っているだけである。月代に関してはジュストも結っていないので人の事は言えないが、とにかくジュストには、志信がサタンのように見えていた。

「久し振りだな、ジュスト。怖い顔をしてどうした?」

 元康はそんなジュストの怒りも知らず、呑気な声を掛ける。あまりに現実が見えていないように思える元康に、ジュストはつい声を荒げてしまった。

「挨拶してる暇なんてない! 元康、このままじゃ、小川家が取り潰しになる!」

 ジュストの言葉に、元康も志信も緩んでいた顔が強張る。

「裏切り者を許した元康はいけないと、輝サマは言った。後一週間もしない内に使者が来て、取り潰しにされる!」

「ジュストは、使者じゃないのか?」

「ジュストは、輝サマに言われて来た。元康が志信を捨てれば、輝サマは元康を保護するとも言っていた。だから元康、今すぐそのサタンを切り捨てるんだ!」
 

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