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しのぶ

第7章 7・しのぶ

 
 全く反省の色を見せない志信に、ジュストは怒りのまま拳を床に叩きつけてしまう。志信が裏切り者であろうと、今は元康と交渉する面目で謁見している身、暴力は御法度である。

「しの!」

 元康はすぐに間に入り、志信を庇う。それが更にジュストの勘に触ったが、さすがにこれ以上の無体は働けなかった。

「なんで、どうしてそこまで……元康にとって、荒谷の民や小川家の家臣は、サタンに劣る存在なのか!?」

 すると今度は志信が、拳を床に叩きつけてジュストを黙らせる。志信がジュストを睨みつける瞳は、闇よりも深く底無しの恐怖を与えた。

「元康様が、民や家臣を軽んじる訳がないだろう。どんな思いで今を選んだのか知らない人間が、喚くんじゃねぇ」

「っ……そこまで言うなら、なぜお前は元康のそばにいる! 元康のためを思うなら、お前は死ぬべきだ!」

 縮こまりそうになるのを堪えて、ジュストは志信に噛みつく。本当に反省し元康を慕うなら、なおさら志信の行動は矛盾しているのだ。ジュストが納得できるはずがなかった。

「そうだな。俺が死ぬのが一番の解決策に違いはないだろう」
 

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