しのぶ
第7章 7・しのぶ
「分かっているなら、今すぐ腹を切れ! ジュストが介錯してやる」
「しかし人間とは業腹な生き物でね。愛する者を目の前にして、わざわざ死にたいとは思えないんだよ。たとえそれが、一番の道と知っていてもな」
ぬけぬけと語る志信に、ジュストはまた拳を握る。だが続く言葉に、その拳は止められてしまった。
「――輝元様に、伝えてほしい事がある」
輝元の元へ戻ったジュストの表情は暗く、交渉が上手くいかなかった事は聞かずとも察せられた。ジュストは対面した途端に涙を溢れさせ、顔を両手で覆った。
「ゴメンナサイ、輝サマ。ジュストは輝サマの大事な元康を、サタンの手から救う事が出来なかった」
怒りも悲しみも隠さず、正直に吐露するジュストに、輝元は苦笑いをこぼす。そして慰めるように頭を撫でると、穏やかな声をかけた。
「仕方ないよ、それもまた業だ。それで、どうなったの? お話聞かせて」
「元康……取り潰しにされても志信は手放さないと言っていました。でも家臣が可哀想だから、毛利家で引き取ってほしいと。詳しい話は、申し開きの際にしたいそうです」