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しのぶ

第1章 1・光への生還

 
 重臣である小山が起こした暗殺未遂は、後に小川家による反乱分子の粛清へと繋がっていく。どこに潜むか分からない敵に精神を削る中、傍らにいたのは身元の怪しい野良忍び。時には主君にずけずけと意見する志信が元康の支えになるのは、他の家臣から見れば不思議な関係だった。元康自身も、不思議に思う事があった。

 元康は初めての邂逅から現実に意識を戻すと、寝息を立てる志信に目線を移す。不思議な事だが、この一年間、志信は誰よりも忠節を元康に捧げていた。

「どうしたらこの想い、お前は受け入れてくれるんだろうな……」

 元康は無防備な志信の唇に、そっと口づける。おそらく志信は、起きていればそれを拒んだだろう。忠義だけではなく愛情もよこせと迫る自分が欲張りなのかもしれないと、元康は自嘲する。それでも、臣従ではなく一人の人間として、志信を望んでしまう気持ちは止められなかった。

 戦が迫れば、また志信に動いてもらわなければならない事案が増える。ならば今だけは志信を独占したいと願いながら、元康は志信に寄り添い目を閉じた。



つづく


 

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