しのぶ
第2章 2・手紙
散々なぶられた体が達するのは、すぐの事。全身を巡る絶頂に堪えきれず、志信は木に寄りかかると、痙攣する身が落ち着くまで余韻に浸った。
「ぁ……はぁっ……」
左手に残るのは、白濁した快楽の証。志信はそれを恨みがましく睨み、握り潰した。
(らしくない……忍び失格だ)
今さら忍びらしく辺りを警戒してみても、欲に耽った証がなくなるわけではない。靄が晴れると共に襲われる罪悪感に潰され、志信はその場に腰を下ろした。
「元忠様……」
そして、受取人が彦右衛門の文を取り出すと、それを読み返す。
(俺には元忠様を案ずる資格なんか、もうない)
「申し訳ありません、俺は――」
汚れた手を文で拭い、さらに志信はそれを破り散らす。その切れ端は粉雪のように散り、そして溶けてしまったかのように見えなくなった。
(たとえ誰を裏切っても、成し遂げなければならない事が出来ました)
想いは、しのび。志信がひゅうと口笛を吹くと、鷹が闇夜を羽ばたき現れる。志信はその鷹の足にもう一通の文をくくりつけると、西の空に鷹を放った。
つづく