しのぶ
第2章 2・手紙
「そうやって俺を気分良くさせて、自分も満たそうとする腹だろう。いざ欲望にまみれると、忠義も形無しだな」
交わりは拒みながら欲は吐き出したいなど、わがままそのものである。だが矛盾を起こしてまで志信が元康を求めているのだと思うと、決して悪い気分にはならなかった。
「今日はこれで我慢だ。いいな、志信」
元康は振り返ると、熱い吐息を漏らす志信の口を塞ぐ。煽るように貪り、糸が引くほど絡み付くが、離れるとすぐに元康は背を向け、狸寝入りした。
「……怖いお人だ、あなたは」
志信は不満げに呟くと立ち上がり、文を二通とも乱れた着物の裾に突っ込んで部屋を出ていく。灯台の火が消され、襖が閉まる音が響くと、元康は閉じた目を薄く開いた。
(もう少し強く迫られていたら、危なかったな)
言葉と体が伴っていないのは、元康とて同じ事。志信が戻る前に自己処理を済ませようと、元康は自身を自ら握った。
夜の空気は、熱い体を冷ますにはちょうどいい冷たさだった。宿の裏にある小さな森の中、志信は一人で快楽に興じていた。
「はっ……んんっ!」