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しのぶ

第3章 3・嘘つきの顔

 






 一代で太閤まで成り上がった秀吉の居城、大坂城。かつて石山本願寺があったこの場所に建つ城は、金が黒を受けて映える外観も、城下一円を見渡せる天守も、全てが豊臣家の永劫を象徴しているようだった。

「さすがは三国無双の名城だな。うちとは比べ物にならん」

 志信は女装を止めて元康と共に商人へ成りすまし、大坂城の門をくぐる。今ここに腰を下ろしているのは、元康の主、中国の覇者毛利家を治める輝元だった。

「大坂城には、黄金の茶室があると聞いたぞ。後でこっそり見てみたいと思わないか?」

「ご自重ください。余計な行動を取れば、いらぬ疑いを掛けられますよ」

 城の中へ入れば、今度は正装である着物と袴へ。忙しく着替えながらも、二人は輝元へと近付いていた。

「しかし元康様。私は輝元様のお顔を存じ上げません。この先輝元様とお会いしても、本物かどうかは分かりかねますよ」

「それは問題ない。輝様のようなお方は、二人とおらんからな。顔だけ似せても、あの雰囲気は誰にも真似できんよ」

「へえ……そのように仰るとは、どのようなお方なのですか?」
 

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