しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
「そうだなあ……一言で言えば、化け物だな」
「化け物?」
志信が首を傾げたその時。廊下を走る、遠慮のない二つの足音が響く。志信が元康を庇い背に隠すと、曲がり角から、小さな子どもと青年が現れた。
「秀頼様、それ輝が後で食べようとしてたかまぼこですよ! 勝手に食べちゃダメなんですからね!」
「やだやだ、僕が見つけたんだから僕のだもん!」
青年は、子どもに向かい「秀頼様」と呼んでいた。その正体を悟った志信は、どうやら追いかけっこをしているらしい子どもの前に出て、肩を押さえてしゃがみ、捕まえる。
「わあっ!」
「足音を立てて走るとは、礼儀に反していますよ。殿というものは常に余裕を持ち、優雅な振る舞いを心掛けるべきです」
ぽっちゃりとした子ども――秀吉が溺愛したただ一人の実子、秀頼は、見慣れない顔に首を傾げる。子どもらしい無垢で丸い瞳が、志信をじっと見つめた。
「お兄ちゃん、誰?」
「さて、誰でしょうね? 当てられたら、これを差し上げましょう」
志信が懐から取り出したのは、餅。秀頼は今にもよだれを垂らしそうなほど口を広げ、考え込む。