しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
「それで、私にお話とは? まあ、この殺気に先程の言葉、あまり良い話でないとは窺えますが」
「うーん……そうだね、単刀直入に言えば、輝はキミをとっても疑ってるなあ。東軍の間者じゃない?」
「ここで素直にそうですと答える間者がいると思いますか?」
「ふふ、当然返ってくるのは否定の返事だよね」
疑っていると言いながら、輝元は飄々とした態度のままである。志信は頭巾から覗く瞳を僅かに細め、頭を下げた。
「元康様を呼び出したのも、私への尋問が目的ですか? ただの忍びである私を名指しで呼び出せば、元康様も不審に思います。しかし極秘で来いと仰せられたのなら、元康様は必ず私を供につけるでしょうから」
輝元が送ってきた文は、部屋の隅から隅まで届くほどの長いものである。短い簡潔な文なら人違いもあるだろうが、あれだけ長い手紙を読んで、元康が人違いに気付かないはずがない。輝元は間違えたなどと話していたが、あれは確かに小川元康宛ての文に違いなかった。
「さあてね? 呼び出したのは、ただの親心だよ。元康は息子のようなものだから」