しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
海のように深い青が志信に向けているのは、警戒と殺意。志信が一歩踏み出せば、すぐに刀を握り、飛び出すつもりだと見て取れた。
「一つだけよろしいでしょうか。その小姓ですが、そこまで殺意を明らかにすれば、相手は余計な警戒心を抱きます。感情を隠す事を覚えさせるべきかと」
するとジュストと呼ばれた小姓は、青い瞳が真っ赤に染まらんばかりに目をつり上げ、刀の柄を握り志信を恫喝する。
「エラそうに、何を……! 間者のクセに!」
「ジュスト。志信の言う通りだよ。キミが怖い顔をしていたら、志信も腹を割ってお話出来ないでしょう?」
「けれど、コイツは敵!」
「ジュスト」
輝元はただ静かに、もう一度名前だけ呼ぶ。しかしジュストは歯を食いしばりながらも、刀から手を離し正座に座り直した。
「……ゴメンナサイ」
「輝からもごめんね。どうにも南蛮人ってのは、普段は穏やかな割に火がつくと怖くなっちゃって。感情の起伏が激しいんだ」
輝元は笑っているが、その目は志信を見定めている。どこか地に足の付いていないような昼間の印象とは、まるで正反対の瞳だった。