しのぶ
第3章 3・嘘つきの顔
「どうか、私の言葉を信じて欲しいのです。小早川の間者として潜り込む以上、あなたに少々の不利を成す事もあるでしょう。しかし、私の行動全ては主君のため。元康様の害になる沙汰は決して起こしません」
「そんな事、改めて言わなくとも分かっている。志信の心は、ここにあるのだろう?」
元康は自らの胸に手を当て、笑顔を見せる。そして志信の顔を上げさせると、頭を撫でた。
「家臣を信じられない主君に、未来などない。何も心配するな、しの。この戦――末端ではあるが、俺は必ず西軍、いや毛利家のため力を尽くす。お前も、力を貸してくれ」
志信は小さく頷くと、早速任務へと向かう。元康はそれをただ、見送るしか出来なかった。
「しのぶ……」
窓を覗けば、朝日が山から顔を出している。元康はそれを見つめながら、胸の中にある志信の心へ呼び掛けた。
(信じているから、早く帰ってこいよ)
各地では既に、この戦の前哨戦が始まっている。そして伏見城も、また同じく戦の先を占う決戦の一つだ。簡単でないと知りながらも、元康は昇る未来を祈った。
つづく