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しのぶ

第4章 4・暗躍

 






 伏見城を守る鳥居彦右衛門元忠は、初めから死ぬ気で城へと残っている。開城の旨も突っぱね頑固に籠もるその様を、西軍の武士は家康への忠義として敵ながら敬意を抱いた。しかし中にはそれを負け犬の意地と嘲り笑う武士もいた。

 小早川の家臣である若武者・助六は、元忠を嘲笑う浅はかな武士の一人であった。

「まったく、とっとと開城すれば良いものを……」

 戦の最中であるにも関わらず、助六はその夜遊女屋へ足を運んでいた。籠城戦は大軍で囲んでも手間取る粘りの策。文句を零しながら遊女の待つ部屋の襖を開けると、助六は目を見開き言葉を失った。

 そこに座るのは、柔らかな線を持つ女ではなく、目を奪われるような白い肌としなやかな体をさらけ出した男であった。しかも彼は均整の取れた体に、やたら長い文を巻き付けている。局部はその文で隠され、裸体の美しさをその目で全て確かめる事は出来なかった。

「お前は……」

「志信、とお呼びください。小川吉右衛門元康の使者として、文を届けに参りました」

 体に巻き付けた文の端を手に取り、志信と名乗る男は微笑む。女ではないが、負けず劣らず美しいその笑みに、助六の性は萎まなかった。
 

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