しのぶ
第4章 4・暗躍
「ま、まあ使者とあらば仕方ないな。どれ、寄越せ」
助六は一番気になる部分を隠す文を一気に取り払おうとするが、志信は文を軽く押さえると首を振る。
「大事な文ですから、じっくり読んでいただかないと。夏の夜は短いとはいえ、急く必要はありません」
「む、むう……」
仕方なく助六は文に目を向け、ざっくりと読み始める。助六の主君である小早川秀秋は、元々秀吉の正室であるおねねの甥であり、秀吉の養子。かつては同じ毛利家の家臣であったとしても、秀秋が家を継いだ今、格の違いは明らかである。文を受け取るにしても、助六は元康に敬意も関心もなかった。
そんな助六だからこそ、怒りに火がつくのは早かった。格下である元康がしたためたのは、主君である秀秋の罵詈雑言。初めこそ西軍同士協力しようと呼び掛けていたが、残りは全て侮辱であった。
「貴様、このような物を――っ!」
半ば頃、耐えきれなくなった助六は刀を握る。が、殺すべき使者の志信が目に入ると、思わず唾を飲んでしまった。
下半身はまだ隠れているが、半ばまで読んだ事で志信の胸の飾りや細い腰は露わになる。その肢体は、切り捨てるには惜しい逸品であった。