しのぶ
第4章 4・暗躍
「……元康と、輝は一緒だ」
輝元は無礼を怒るでもなく、引き止める訳でもなく、うなだれて呟く。
「大事を前に、家臣任せにしてはいけない。自分で考えなきゃ当主じゃない。確かに、それはその通りだ。でも――」
追いかけようとする輝元の足を引っ張るのは、輝元自身の過去である。偉大な叔父、隆景の意見がなければ毛利を牽引出来なかった、自分自身の。
「――ジュスト!」
だが、胸に抱く空虚に引きずられる程、輝元は青くない。首を振り頬を叩くと、近くに控えているであろうジュストを呼び出す。ジュストはすぐに現れると、輝元の前に跪いた。
「ジュスト、適当な護衛を見繕って、元康を荒谷まで送ってあげて。経過が気になるから、ジュストも同行して様子を見てほしい。出来るかな?」
「いざとなったら、裏切り者は殺してもいいんですか?」
「……判断は、ジュストに任せるよ」
ジュストは深く頭を下げると、すぐに行動に移る。一揆の情報が虚偽であっても、異変がどこかで起きるのは間違いない事。一秒も、無駄には出来なかった。
伏見城の争いの影で、動く影。関ヶ原の戦いは、刻一刻と迫っていた。
つづく