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しのぶ

第4章 4・暗躍

 
「うん……まあ、そんなのが送られた以上、普通は帰りたくなるよね」

 だが向かい合う輝元は、元康の考えに反し苦い顔をしている。そしてその口から出てきたのは、消極的な言葉だった。

「でもね、ちょっと待って? その情報は、本当に本当かな? 誰かがこちらの戦力を削るために流した嘘とか、そんな可能性もあるよね? 元康の手勢は、一度帰そう。それで一揆が本当か、調べてもらおう?」

「この文を書いたのは志信です、情報に間違いはありません。家臣が危機に晒されている今、私だけが遠くで見ているわけにはいかないでしょう!」

「その志信だから、怪しいんだけどね……」

「志信を疑うんですか、輝様」

 元康の目に不信が微かに映るのを察し、輝元は咳払いして誤魔化す。だがうまく説得する言葉を探している間に、頭に血が上った元康は席を立ってしまう。

「こんな時に頼りにしていた小山は、もういません。いえ、大事を前に家臣任せにしてはいけないのです。自分で見て、自分で考え、行動しなければ小川家の当主とは言えません!」

 元康はそう言い残し、出て行ってしまう。輝元には、その背中が大きいようで、細く見えた。
 

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