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君の隣の相棒さん、∥

第3章 愛、現(伊)

「‥‥行かなくて良かったの?」


『何がですか?』


「何がって、伊丹さんの所」



神戸さんは時に、意地悪だ。あんなのを目の前にして私が突っ込んで行けるほど度胸がある人間でないことくらい分かっているクセして、そういうことを言うんだ。

私は何も答えず、誤魔化すようにただアイスティーのストローに口をつける。
正直、なんとも言えなかったからだ。



────不意に鳴る喫茶店の扉につけられた鈴の音。
扉を背にしていた私は神戸さんの視線がそこに向けられるまで気付かずにいた。


「これはこれは、警部補殿」


「ど、どうも‥」



帰り際、神戸さんの後ろにいた私は咄嗟に背中に隠れた。そう、反射的に。

神戸さんの背中越しに見る伊丹さんは少し驚いたような顔をしていた。
多分…、と言わなくても私の短くなった髪に気付いたからだと思う。



『行きましょう神戸さん』



喫茶店に入るときと同じように神戸さんの服の袖を引っ張って、咄嗟にそう言っていた。

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