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衝動

第6章 〜彼女のお話〜




鈴森尋也は、自分の部屋のベッドに寝転がりながら、栞のことを思い出していた。

まだ少しだけあどけなさが残っていた中学生の頃とは違い、もうすっかり大人になっていた。腰まである、黒くて綺麗な長い髪は相変わらずだったが、大分顔つきが変わったように思える。昔から端正な顔立ちをしていたが、昔より綺麗になった気がした。

「高校生のときの僕が聞いたらびっくりするだろうな〜」

現在、尋也と栞は交際をしている。

僕は多分、ずっと栞のことが好きだったのだろう。栞が引っ越して別れてからも、時々ふと思い出し、彼女と話したいと思うこともあった。

「いつからだったんだろう…」

いつから僕は栞のことが好きだったのだろうか。自分でも気がつかないうちに、栞に対してのそういう感情が膨らんでいったのだろう。
小学生だった彼女の、僕を見つめる純粋な瞳は今でも忘れられなかった。

そう考えると、たまらなく愛おしいと思う。

最初はあんなに警戒して、すれ違う度に顔を下に向けていたのに。いつの間にか彼女は僕を慕うようになり、空き地やマンションの前で会うと必ず笑顔を僕に向けて走り寄ってきた。そして、彼女は僕に色々なことを話してくれた。
彼女は本が大好きで、昨日読んだ本が面白かったとか、今日はこんな本を図書室で借りたんだとか、そんな他愛のないといえば他愛のない話をよくしていた。

今でも彼女はよく本の話をする。僕自身も、昔から本がとても好きだから、彼女との本の話はとても好きだった。

見た目は大人っぽくなったけれど、根本的なところは小学生のときのままのような気がした。別に彼女が子供っぽいというわけではない。元から、彼女が大人っぽかったのだ。

そんなことを考えて居ると、無性に彼女に会いたくなった。同じマンションだから、会おうと思えばすぐ会えるのだが、何かと彼女は忙しいので、電話だけのことも多かった。

「会いたい」なんていうメールを送る柄ではなかったが、送ったら何という返事が来るのだろうという好奇心もあり、送ってみることにした。

今更だが彼女はずっと敬語だ。ずっとこのままなのだろうか。でも多分、敬語じゃなくてもいいと僕が言ったとしても、彼女の敬語がなおることはないだろう。彼女がそれでいいなら、ずっとそれでも良いかなと思った。

メールの返事を待っている間に、僕は眠りに落ちた。



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