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衝動

第4章 〜彼との出会い〜


次の日、いつものように空き地へ散歩に行った。

猫を膝に乗せて抱き、頭を撫でる。

「…でももう……来ないよね…」

優しくしたのに、手を払いのけられて、またここに来るなんてありえない。

でも私は待った。

でも結局、彼はここに来なかった。

家へ帰ろうとマンションの表へ周り、階段へ向かった。

「あ……」

目の前に、さっきまで私が待って居たその人が居た。

『こんばんは』

彼はまた私に優しく笑いかけた。

「……こんばんは…」

少しまだ怖いけれど、なんとか挨拶はできた。

彼はその場を去ろうとしたが、私は彼に謝まらなければならなかった。私は勇気を振り絞った。

「…す…鈴森さん…!」

彼は驚いた顔をして振り返った。私から話しかけられるとは思ってもいなかったのだろう。

「…あの…この間は…本当に…ごめんなさい……あんなことするつもりは…なかったのに…」

ちゃんと目を見て謝ることができた。

彼は微笑んだ。

『…名前…覚えててくれたんだね。そんなこと、謝らなくていいよ。いきなりだったもん、怖かったね。』

彼はまた頭を撫でようとしたが、手を引っ込めた。

私は、彼に向かって微笑んだ。上手く笑えたかはわからないけれど。

『……っ』

彼はまた少し驚いた顔をした。
そして、躊躇うようにゆっくりと、私の頭に手をのせた。

「もう……怖くないですよ」

『…良かった』

彼の大きい手で撫でられるのは、とても気持ちが良かった。

『もうそろそろ帰らないと怒られちゃうでしょ?』

彼は撫でるのをやめ、私にそう尋ねた。

「…はい。」

そういえば、名前をずっと言い忘れて居た。

「私、葉月栞っていいます。よろしく…お願いします」

『栞ちゃんね。覚えておくね。僕のこと、苗字で呼ばなくてもいいよ。』

「……尋也…さん…?」

歳上の人を名前で呼ぶのはなんとなく気恥ずかしかった。

尋也さんは、優しい笑顔を私に向けた。

『じゃあまた明日ね。』

手を振って、さよならをした。

これが、彼との出会いだった。






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