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最後の恋は甘めの味で

第8章 イライラ

がしっと佳世の肩を掴む。


「ねぇ、待って......あの時佳世、私って気付かなかったんじゃないの.....?」

「えー......あー......」

「ねぇ!そうよね?!」


がくがくと佳世の体全体を揺らす。


確かに私は昨日、不本意ながらあの男に階段の踊り場で抱き締められた。


その際に、佳世と遭遇してしまったが、あの時、佳世は私だと気付かなかったはずだ。


「あー、もう。落ち着いてって」


佳世は私の手をどけて、困ったように頬に手を当てた。


「......佳世.....正直に話しなさいよ......じゃないと......」

「分かってる。分かってるから」


私をどうどうと宥める佳世。


「あのねぇ、何年同僚やってると思うの。足だけとは言え、暁ってすぐ分かったわ。でも、上條くんが知らぬ振りでお願いしますーって訴えるんだもの。私は寿司と焼肉に買われたのよ......」


遠くを見詰める佳世に言葉を出せない私。


”暁さんの同期、いい人ですね”


やっとあの男の言葉に合点がいった。


とふいに佳世はゆっくりと視線を私に戻す。

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